社説「人権勧告」

 12月28日の朝日新聞の社説「人権勧告」に触れて一言。
 この社説は、大きな問題を孕んでいる。
 第1に、掲載された時期である。なぜ、この時期に遅れて取り上げたかと言うことである。「鐵は熱いうちに」のはずである。このブログでも紹介したように、国連人権規約委員会で勧告が出されたのは、10月30日であった。2ヶ月も経ってから、申し訳程度に社説として取り上げたと言わざるを得ない。
 しかし、最大の問題は、国連による日本政府に対する人権勧告の最重要の内容は、社説が記載するような代用監獄や政府批判のビラではない。確かに、日弁連の提唱した刑事司法改革のためのアクション・プログラムの一項目である代用監獄の廃止や取り調べの可視化も必要であり、表現の自由を確保することも不可欠である。
 国連の勧告で日本政府に向けられた最重要な勧告の対象は、死刑制度の廃止であったはずである。ところが、この社説には、基本的人権で最も重要とされた「生命権(le droit de la vie)」の侵害である死刑制度に関する記載がない。
 この社説は、政府のために書かれたものであり、国民の基本的人権の目線で書かれたものではないことが分かる。なぜ、死刑制度に拘泥し続ける政府の批判をしないのか。批判することが、マス・メディアの一翼を担う社説の使命なのではないか。
 政府の人権感覚も時代錯誤であるから、国連人権規約委員会からの勧告がなされたはずであるのに、その勧告による肝心要の生命権侵害を新聞社が擁護するとは !。

 同日の「天声人語」は、すっきりした内容である。
 わが国で死刑制度の廃絶の最終ページは、いつになるのだろうか。